現在の研究内容は、数の幾何(geometry of numbers)です。数の幾何は1900年代初頭にミンコフスキーによって創始された分野で、有名な定理としてミンコフスキーの凸体定理「n次元ユークリッド空間の中の原点対称な凸体で、その体積が2nより大きいものは、原点以外の整数点を必ず含む。」があります。凸体として楕円体を取るとより精密な結果が言えます。例えば、3次元の場合には、3次の実正則行列Aを固定して、点xで内積(Ax, Ax)の値が定数c>0以下になるようなもの全体の集合をK(c)とおくと、K(c)は楕円体になります。cを変化させて、各i=1, 2, 3に対し、定数ciをci=「K(c)がi個の一次独立な整数点を含むようなcで最小のもの」と定義します。このとき3個の定数c1, c2, c3について(c1)(c2)(c3)<=2│detA│2という不等式が成り立ちます。これはミンコフスキーの第2定理と呼ばれています。同様の不等式がn次元の楕円体の場合にもが成り立ちます。
一般にAをn次実正則行列として、定数c1, c2,,,,cnを3次元の場合と同じように(1次独立なベクトルがn個までとれるので、定数はn個になります)定義すると(c1)(c2)...(cn)<=h(n)│detA│2 が成り立ちます。ここでh(n)はn次元のエルミート定数とよばれる定数です。h(2)=4/3, h(3)=2, h(4)=4, などh(8)の値までは決定されていますが、一般のnでは、h(n)の値は求まっていません。この分野における最近の大きな話題は、2003年に h(24)=424が求められたことです。(皆さんも、例えばh(9)の値を決定すれば教科書に名前が載ることになります。ちなみに、h(3)=2を求めたのはガウス(1831年)でした。ガウスはミンコフスキーよりも前の年代の人ですが、実質的にこの値を求めていました。)私の興味は、上に述べたような数の幾何の理論をユークリッド空間から代数多様体に拡張することにあります。最近の研究で、Minkowskiの第2定理をグラスマン多様体やセベリ-ブラウアー多様体にまで拡張することができました。ここに述べたこと以外に、数論的部分群の基本領域、保型形式、2次形式の代数的理論や、ディオファンタス近似論にも興味があります。