数学科Q&A

数学科に入学したいと思っているD君とIさんが大阪大学数学科を訪問して疑問に思っていることを尋ねたと想定して問答を試みてみましょう。数学者Y先生が答えます。

D君 高等学校で習った数学をみると、まだわかっていないことなどないような気もしますが、いかがでしょうか。
Y先生: それは数学の論理の高度な完全さがそういう印象を与えるからでしょう。実際にはやらねばならないことが山積しています。自然現象の多くは“非線形な”現象ですが、それらは微分方程式の解を求めて記述されます。厳密な解でなくとも、それを近似する解をコンピューターを用いて求めたりします。これなどは数学を工学に応用するにあたってやらねばならぬことでしょう。
Iさん 大学の数学と高等学校の数学ではずいぶんと違うように聞きましたが本当でしょうか。
Y先生: ものごとを抽象化する度合いは高まるでしょうが、高等学校の数学から大学の数学に自然に入ってゆけます。高等学校で数学に対して抱いた興味と勉強しようという気持ちをもちつづけて下さい。
D君 高等学校の数学を勉強して数学を面白いと思うようになりました。数学者になりたいという確固たる意思はありませんが、数学科に入学するには動機不十分でしょうか。
Y先生: 数学は自由な学問です。数学を面白いと思う人ならば、まず数学を勉強してみてはどうでしょう。今、あらゆる分野において、数学的要素を身につけた人材が求められています。
Iさん 数学科における女子学生の比率はどうでしょうか。また女性数学者の活躍はいかがでしょうか。
Y先生: 大阪大学数学科定員47名のうち5〜10名が女子学生です。まじめな学習態度で立派な成績を挙げています。世界的にみて女性数学者の数は今世紀に入って増えていますが、日本では欧米に比べてまだまだ少ないと思います。
D君 数学は社会に役立つ学問でしょうか。
Y先生: もちろんです。10進法や2進法のない世界が考えられるでしょうか。数学は有用な公式や理論を他分野の研究者に提供するだけでなく、新しい概念を導入して、物の見方を変えていくこともできるのです。最近の例では、カオス理論やフラクタル次元の理論があります。社会が数学を必要とする度合いはますます大きくなってきています。
Iさん 数学は紙と鉛筆があればできる学問と聞いていますが、それは本当でしょうか。
Y先生: 多分、それは数学が人間の頭の中でしか生みだし得ないことを例えていったことで、その意味では本当といえます。ただ、実際には、優れた研究者と討論することや文献を読むことなどが、自分のアイデアを育てたり、新しい知識を吸収したりする上で欠かせません。また、考える問題によっては、コンピューターを用いた実験が必要になることもあります。
D君 数学でも実験をするのですか。そういえば、大阪大学数学科には「実験数学」という講義があると聞きましたが、どのような内容なのですか。
Y先生: 数学の研究は、いくつかの具体的な例について実際に計算を行い、その結果を深く観察することからスタートすることが多いのです。研究のこのような段階を「実験数学」と名づけました。実験数学の授業内容ですが、低学年の間は、教員の指導の下で、コンピューターなどを用いた様々な数学実験を行います。これにより、他の授業で得た数学の知識が生きた形 で身についていきます。こうして高学年になるにつれて徐々に自主的な実験へと進みます。
Iさん 阪大の数学科が開催している「高校生のための公開講座」を受講し、とても興味深く思ったのですが、この講座に関連した参考書はないのですか。
Y先生: 阪大数学科の教員が分担執筆している「現代数学序説」(大阪大学出版会)には、現代数学のさまざまな話題が解説されています。この教科書の多くの章は、公開講座での講演原稿をもとにして書かれていますので、高校生にも十分読めると思いますよ。