履修対象:工学部・電子情報工学科56〜110
担当:松本佳彦 matsumoto (at) math.sci.osaka-u.ac.jp
オフィスアワー:学期中の火曜10:30–11:30、木曜15:00–16:00
線形代数学の入門講義です。理学・工学を初めとする諸分野において、線形代数学は微積分学と並び、現象を分析し理論を記述するための“基礎言語”としての位置を占めています。1年次では1年間にわたり線形代数学の基礎を学びますが、その前半にあたるこの授業では、特に行列に関する基本的な操作とその意味を修得することを目的とします。
木曜3限(13:00〜14:30)・全学教育講義棟(共通教育棟)B207教室
授業日程:4/13, 4/20, 4/27, 5/11, 5/18, 5/25, 6/1, 6/8, 6/15, 6/22, 6/29, 7/6, 7/13, 7/20, 7/27
期末試験:8/3
教科書
- 三宅敏恒『線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ』(培風館)
内容・資料など
- 4月13日
- ガイダンス
- 基本的な用語
- 行列に関するいくつかの基本的な用語や記法について説明しました。
- 行列の表す写像
- 1次式で表されるような点の対応であって、さらに原点を原点に写すようなものは、行列と対応づけられます。一つだけ例を挙げました。一般的な説明は次回行います。
- 教科書・問題1.1の1から7までをやっておくこと。
- 4月20日
- 2次正方行列の表す写像
- 2次正方行列$A$によって表される写像$T_A\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$について説明しました。また、「2次正方行列によって表される写像」が「$\mathbb{R}^2$から$\mathbb{R}^2$への線形写像」と一致することを見ました。
- 例として、回転を表す行列を紹介しました。
- 2次正方行列同士の積
- 2次正方行列$A$, $B$の積$AB$を、線形写像の合成$T_A\circ T_B$に対応するように定義しました。
- 例として回転を表す行列の積を取りあげ、それを2通りの方法で求めることにより、三角関数の加法定理が得られることを説明しました。
- 配布した演習問題をやっておくこと。
- 4月27日
- 一般の行列の表す写像と行列の演算
- 一般の(2次正方行列とは限らない)行列について、和、スカラー倍、積を定義しました(差についても口頭で触れた)。
- $m\times n$行列$A$によって表される線形写像$T_A\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$について説明し、和、スカラー倍、積に対応する線形写像$T_{A+B}$, $T_{cA}$, $T_{AB}$について述べました。
- 単位行列の性質と、行列の積が交換法則を満たさないことについて説明しました。
- 逆行列
- 逆行列を定義しました。また2次行列に関して、逆行列を持つ例と持たない例をそれぞれ取りあげました。
- 逆行列の有無が「行列式」によって判定できるということを言い(言っただけ)、次々回以降の講義で行列式について扱うことを予告しました。
- 教科書8, 9ページを読み、問題1.2の1, 2, 4, 5をやっておくこと。
- 5月11日
- 行列の分割による積の計算法
- 行列の分割を用いて積を計算する方法を紹介しました。それでよいことの証明については、配布した補足プリントを参照してください。
- 応用として、行列の中に$0$であるような成分がひとかたまりになって現れているとき、その部分をブロックとみなすような分割を行うと、積が見通しよく計算できることを説明しました。関連して、問題1.3.5について説明しました。
- 別の応用として、行列の列ベクトルへの分割や行ベクトルへの分割を用いることにより、積$AB$に新しい解釈を与えられることを説明しました。
- 行列の積の計算の「大変さ」を説明する際に、誤った計算をしてしまったので訂正します。$3\times 3$行列$A$と$3\times 4$行列$B$の積$AB$を計算するとき「数の掛け算が108回必要」と言いました。正しくは「36回」です。積の各成分を計算するのに3回ずつで、成分が$3\times 4=12$個あるから$3\times 12=36$回ということです。失礼しました!
- 教科書の問題1.3の1, 2, 3, 4をやっておくこと。
- 5月18日
- 2次行列・3次行列の行列式
- 2次行列の行列式を「2つの列ベクトルが張る平行四辺形の符号付き面積」として、3次行列の行列式を「3つの列ベクトルが張る平行六面体の符号付き体積」として、それぞれ定義しました。
- 2次行列・3次行列の行列式の成分による表示を計算しました(途中で出てきた空間ベクトルの外積については、その成分表示を、理由の説明は省いて用いた)。
- 2次行列・3次行列の行列式が列に関して「多重(2重・3重)線形性」と「交代性」を持つことに触れました。
- 2次行列・3次行列$A$は$\det A\not=0$のときに逆行列を持つということを説明し、実際に逆行列を与える式を書きました。3次行列の場合の式(「定理5.4」)は覚えなくていいです(後で一般の$n$次行列に関する式を説明するので、そのときにまとめて覚える)。
- 教科書の問題3.2の1をやっておくこと。
- 5月25日
- 置換の符号、$n$次行列の行列式
- 置換($n$個の文字$1$, $2$, $\dotsc$, $n$の置換)に関する基本的な概念を説明しました。また、任意の置換がいくつかの互換の積で表されること、その際に現れる互換の数の偶奇は表し方に依存しないことを説明し、置換の符号を定義しました。
- 置換の符号を用いて、$n$次行列の行列式を定義しました。
- 行列式が行列の転置によって変わらないこと、行列式が行と列のそれぞれについて「多重線形性」と「交代性」を持つことを述べました。証明は来週説明します。
- 配布した演習問題をやっておくこと。
- 6月1日
- 行列式の性質と計算
- 行列式が行列の転置によって変わらないこと、行列式が行と列の各々について多重線形性と交代性を持つことについて、証明を説明しました(一部省略)。またそれらからすぐに得られる帰結として、成分がすべて$0$であるような行(または列)があったり、2つの行(または列)が一致している場合には、その行列の行列式は$0$となることを述べました。
- $n$次行列の行列式の計算を$n-1$次行列のそれに帰着する方法について説明し、実例を取りあげました。
- 行列$A$, $B$の積$AB$の行列式$\det(AB)$が$\det A\cdot\det B$に等しいことについて、図形的解釈を説明しました。証明は、取りかかったものの時間切れとなったので、来週改めてやり直します。
- 教科書の問題3.2の2、問題3.3の4をやっておくこと。
- 6月8日
- まず、前回終えることのできなかった$\det(AB)=\det A\cdot\det B$の証明を説明しました。
- 行列式の余因子展開と逆行列の公式
- 行列式の余因子展開について実例を交えて説明しました。
- 正方行列$A$が逆行列を持つためには$\det A\not=0$が必要十分であること、またそのとき逆行列を余因子行列を用いて表せることを説明しました。2次行列や3次行列について5月18日に紹介した逆行列の公式は、余因子行列を用いた公式の特別な場合だったわけです。
- 教科書の問題3.4の1, 3, 4をやっておくこと。
- 6月15日
- 6月22日
- 中間試験の結果について
- 中間試験の問2 (3)、問3、問4 (1)を取りあげて解説しながら、これまでの講義に関する補足を行いました。
- 6月29日
- 連立一次方程式と行列
- これから考えていく連立一次方程式がどういったものであるか述べ、解に任意定数が含まれる場合や、解がまったく存在しない場合があることを説明しました。
- 拡大係数行列および係数行列について説明しました。
- 行列の行基本変形(以降、単に「基本変形」と呼ぶ)の概念を導入し、拡大係数行列の基本変形が連立一次方程式の同値変形に対応していることを説明しました。
- 配布した演習問題をやっておくこと。
- 7月6日
- 行列の簡約化と連立一次方程式の解
- 基本変形について復習し、「簡約な行列」の概念を定義しました。
- どんな行列も基本変形を何回か行うことで簡約な行列へと変形できること、また最終的に得られる行列(元の行列の「簡約化」と呼ぶ)は具体的な手続きに依存しないことを述べました。2点目について、その証明を来週説明します。
- 行列の階数(ランク)を定義しました。
- 「行列の簡約化を用いることにより、連立一次方程式は一般にどのように解けるか」というのを説明していましたが、完結しませんでした。来週、再度整理して述べます。
- 教科書の問題2.2の1, 4をやっておくこと。
- 7月13日
- 行列の簡約化と連立一次方程式の解(続き)
- 「簡約な行列」の概念について復習しました(前回よりやや簡潔な形に述べ直しました)。
- 行列の簡約化による解法によって、次のことがわかることを説明しました:$n$未知数の連立一次方程式は一般に、解をまったく持たないか、または$n-\mathrm{rank}(A)$個の任意定数を含む一般解を持つ($A$は連立一次方程式の係数行列)。
- 行列の簡約化の一意性
- ベクトルの一次結合の概念を説明し、ベクトル$\bm{b}$がベクトル$\bm{a}_1$, ..., $\bm{a}_k$の一次結合として表されるかどうかを判定する方法について述べました。
- ベクトルの一次結合の概念を利用して、行列の簡約化が、具体的な手続きによらず一意的に定まることを証明しました。
- 証明の最後が言葉足らずになってしまったので、補足するプリントを作りました。
- 配布したプリントで指示した問題をやっておくこと。
- 7月20日
- 逆行列再論
- 連立一次方程式の基本変形による解法を用いて、逆行列を計算できることを説明しました。「共通の係数行列を持つような複数の連立一次方程式はまとめて解ける」というのが重要でした。
- 上記の操作に関連して、正則行列(逆行列を持つ行列)の簡約化は必ず単位行列になることを証明しました。この「簡約化が単位行列になる」というのは、与えられた行列が正則行列となるための必要条件であるだけではなく、十分条件でもあります。他にもいくつかの必要十分条件があることを紹介しました。
- 教科書の問題2.4の1, 3, 4 (1) (3), 8をやっておくこと。
- 今回までの内容が試験範囲となります。今学期のまとめ
- 7月27日
- 平面・空間における回転と複素数・四元数
- 平面における回転が単位複素数によって表されること、空間(3次元空間)における回転が単位四元数によって表されることについて説明しました。
- 8月3日
授業の映像が観られます(受講者のみ)
授業が録画されています(「Echoシステム」というそうです)。受講者の人は、大阪大学CLEのこの授業のページにある「EchoCenter」というリンクをクリックすると映像を観られます。活用してください。