下記の書籍は絶版となりましたが、改訂増補版が
「不変量と対称性─現代数学のこころ」(ちくま学芸文庫)
として出版されました。(2013年3月)


不変量とはなにか -- 現代数学のこころ

講談社ブルーバックスから刊行(2002年11月20日)
今井淳/寺尾宏明/中村博昭 著 (本体900円(税別))
ISBN4-06-257393-8
「はじめに」より
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 皆さんは上田秋成の「雨月物語」という小説の「夢応の鯉魚」というお話をご存知でしょうか。 病で死にかけた僧が夢の中で湖の中の鯉になり、釣り上げられて料理される寸前に意識が戻り生き返った、というストーリーです。 このような話、人間が他の生き物に変身してしまうような話は「変身譚」と呼ばれています。 (もっとも、この「夢応の鯉魚」には、なんだか臨死体験の幽体離脱の要素も少し入っているようですが。)
 他に中島敦の「山月記」(虎になる)があります。 変身譚で最も有名なのはカフカのその名もずばり「変身」(大きな毒虫になる)でしょうか。 古くはローマのオウィディウスの「変身物語」やギリシャのアプレイウスの「黄金の驢馬」からガーネットの「狐になった奥様」まで、 古今東西その例は枚挙にいとまがありません。
 ここでは別にこれらの物語の宗教的、怪奇的、 あるいは哲学的なテーマを語るのが目的ではありません。 これらの物語の多くにある「姿は変われど心は不変」という前提の方に注意して欲しいのです。 ここで、変身した者は、姿が魚であれトラであれ「自分」を認識しています。 しかし、そんなことは知らない他人の目には、魚は魚、トラはトラでしかありません。 「見かけの下に潜んだ本当の心」が分かるかどうか、これは変身譚のストーリーの結末を左右する大きなポイントなのです。
 さて、道草はこれ位にして、最初に挙げた問題に戻りましょう。 実は、これらの問題で扱う対象は、それぞれの意味で、色々と見かけを変えることが出来るのです。 そして、その様々に現れた姿態に潜むそのものの本質、それを掴(つか)むことが出来るかどうかで、 理解の度合いが全く変わってきてしまうのです。 ...


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