履修対象:工学部・電子情報工学科56〜110
担当:松本佳彦 matsumoto (at) math.sci.osaka-u.ac.jp
オフィスアワー:学期中の水曜10:00–11:00
春夏学期の「線形代数学・同演義I」に引きつづき,一般の線形空間に関する「線形代数学」の基本的知識を身につけます.
木曜3・4限(13:00〜16:10)・全学教育講義棟(共通教育棟)A201教室
日程
以下のように予定しています(変更する場合は授業中・KOAN・このWebページで告知します).
- 10月3日,10日,17日,24日,31日
- 11月7日,
14日(休講),21日,28日
- 12月5日,12日,19日
- 1月9日,16日,
23日(休講)
期末試験は1月30日です.
内容・資料など
- 10月3日
- この授業の全体像について説明しました.「線形空間と線形写像は,数ベクトルと行列の理論へと帰着して理解できる」というのが線形代数学のスローガンです(小声でいうと,「有限次元ならば」という但し書きがつきます).
- 成績評価などに関する情報を含むガイダンスをしました.(なお,授業で扱う項目のリスト中に「線形写像の固有値と固有ベクトル,行列の対角化」とありますが,これは「線形変換の……」とするのが適切でした.)
- 抽象的な線形空間の定義を述べ,例を挙げました.これらの例は,今後繰り返し出てくることになります.
- 線形部分空間の定義を述べ,線形部分空間であることを確かめるための判定法を説明しました.
- 配布した問題.問題1.1の(1), (2)は授業中に解説しました.
- 問題1.1の(3), (4)および1.2の解答例.問題1.3は次回の冒頭で扱います.
- 10月10日
- 問題1.3について説明しました.
- 線形写像を定義し,例を挙げました.
- 線形写像の核および像を定義し,それらが各々,定義域および終域の部分空間になることを証明しました.
- 写像の単射性・全射性の概念を説明しました.線形写像について,単射性は核が自明である(零ベクトルのみからなる線形空間になる)ことと同値です.次回説明します.
- 配布した問題.問題2.1,2.2,2.4は授業中に扱いました.
- 問題2.3および2.4 (1)の解答例.問題2.5は次回使いますが,春夏学期の内容の復習なので,自力で解けるか試してみてきてください.
- 10月17日
- 前回やり残したこと(線形写像について,単射性と核の自明性は同値である)を証明しました.
- 問題2.5(行列で与えられる線形写像の核・像の決定)をやりました.「行基本変形とは連立一次方程式の同値変形である」というのが重要でした.行列を行基本変形だけで変形していくことにより「階段型」の行列に達することができますが,これについて整理するプリントを次回配布する予定です.
- 一般の線形空間の基底の概念を定義しました.基底があれば,それを介して一般の線形空間を数ベクトル空間と同一視することができることを見ました(問題3.1).
- 具体的なベクトルの組が基底であることを証明する練習をしました(問題3.2).ついでに,「一般に基底はいろいろある」という認識ももってください.
- 基底が存在するとき,それを構成するベクトルの個数は,どの基底をとるかによらず一定であることを証明しました(定理3.1).その個数を線形空間の「次元」とよびます.
- 無限次元の線形空間の例を見ました(問題3.3).
- 配布した問題.問題3.1,3.2,3.3は授業中に扱いました.
- 問題3.4,3.5の解答例
- 10月24日
- ベクトルの組の線形独立性を判定する方法を,数ベクトル空間と一般の線形空間のそれぞれの場合について確認しました.数ベクトル空間の場合は連立一次方程式を解くことに帰着されます.
- ベクトルの組が「生成する」(または「張る」)部分空間の概念を導入しました.
- 線形空間$V$を生成するベクトルの組(「生成系」という言い方もします)が与えられたとき,そこからいくつかのベクトルをとって$V$の基底をつくる方法を説明しました.
- 配布した問題.問題4.1,4.2,4.3,4.4は授業中に扱いました.
- 問題4.2の別解と問題4.5の解答例
- 10月31日
- 前回の補足として,有限次元線形空間$V$の部分空間$W$の次元が一般に$\dim W\leq\dim V$をみたすこと,また$\dim W=\dim V$ならば$W=V$であることを説明しました.
- 線形写像の表現行列の概念を説明しました.また,表現行列の定める写像を利用して,もとの線形写像の核や像を求める練習をしました.
- いわゆる次元定理を説明しました.
- 配布した問題.問題5.1 (1)の「$\Psi(f(x))$」は「$\Phi(f(x))$」に直してください.問題5.1,5.2,5.3は授業中に扱いました.
- 問題5.4の解答例.中間試験では,ここまで難しい問題が解けなくても7〜8割は得点できるようにします.
- 11月7日
- 11月21日
- 中間試験を返却しました.
- 線形変換の固有値,固有ベクトル,固有空間の概念を定義しました.またそれらを,表現行列に関する対応物を用いて求められることを説明しました.
- 行列(正方行列)の固有値,固有ベクトル,固有空間の求め方を復習しました.
- 行列$A$の固有値と$P^{-1}AP$の固有値($P$は正則行列)は一致しますが,それは両者が同じ線形変換の異なる基底に関する表現行列だからともいえるし,また計算によって固有多項式が一致することがわかるからともいえます.
- 配布した問題.
- 問題7.3 (2),7.4,7.5の解答例.
- 11月28日
- 中間試験の講評・解答例を配布しました.
- 行列の対角化,線形変換の対角化,およびそれらの関係について説明しました.
- 行列$A$が対角化できるためには,各固有値について,固有空間の次元$\dim W_A(\lambda)$が固有値の重複度に達することが必要十分であることを証明しました.一般には,$\dim W_A(\lambda)$は固有値の重複度以下です.
- 対角化を用いた,行列の羃乗$A^k$の計算,指数関数$\exp A$の計算を説明しました.あわせて複素数の指数関数$e^z$も導入しました.
- 配布した問題.
- 問題8.2,8.4の解答例.
- 12月5日
- 前回残っていた問題8.3の解説をしました.
- 微分方程式(正確には,定数係数斉次線形常微分方程式)について,行列の指数関数を用いる解法,および解空間の微分作用素による固有空間分解を用いる解法を説明しました(固有多項式が重根をもたない場合に限る).
- 漸化式(正確には,定数係数斉次線形漸化式)について,行列の羃乗を用いる解法,および解空間のシフト作用素による固有空間分解を用いる解法を説明しました(固有多項式が重根をもたない場合に限る).微分方程式の解法とほとんど同じことをしているのを味わってもらいたいと思います.
- 配布した問題.訂正:今回の内容について,教科書にはpp. 162–163に少し記述があるだけだと書きましたが,pp. 158–159にも漸化式の扱いがありました.しかしいずれにしても,今回説明した内容の大部分は教科書には載っていません.もうひとつ訂正:齋藤正彦先生の著書のタイトルは「線形」ではなく「線型」です!
- 問題9.1 (2),9.2,9.3の解答例.
- 12月12日
- 実線形空間,複素線形空間の内積の概念を導入しました.
- 対称変換,Hermite変換について説明し,その正規直交基底に関する表現行列が対称行列,Hermite行列となることを説明しました.
- 配布した問題.授業中に問題10.2,10.3を扱いました.
- 問題10.1,10.4の解答例.
- 12月19日
- 中間試験(第2回)をやりました.問題はこれです.なお,4. (1)の微分方程式を$f''''-5f'''+15f''-5f'-26f=0$に訂正しました(最後の「$f$」が抜けていた).
- 発展的話題として,円周上の熱方程式とFourier展開について話しました.関連する文献を挙げておきます.
- 藤田博司『「集合と位相」をなぜ学ぶのか——数学の基礎として根づくまでの歴史』(技術評論社,2018年)——Fourierの考えたこととその論理的不備が,どのようにして解析学の再検討へとつながっていったかが語られています.
- J. フーリエ,西村重人(訳),高瀬正仁(監訳)『熱の解析的理論』(朝倉書店,2020年)——Fourierは1807年の論文のあと,1822年に本を書きました.その本の新訳だそうです! まだ手にとって見ていません.定価11,000円とのことなので,(普通の人は)図書館に入るのを待ちましょう.
- 俣野博,神保道夫『熱・波動と微分方程式』(岩波書店,2004年)——偏微分方程式への入門書は多数ありますが,たとえばこれは比較的とっつきやすいのではないかと思います.
- 1月9日
- 中間試験を返却しました.
- 中間試験の講評・解答例を配布しました.
- 直交行列,ユニタリ行列を定義し,正規直交系の概念による特徴づけをしました.
- 実対称行列,Hermite行列の固有値が実数であること,異なる固有値に対する固有ベクトル同士が直交することを説明しました.
- 実対称行列,Hermite行列がそれぞれ直交行列,ユニタリ行列を用いて対角化できることを述べました.
- 配布した問題.
- 問題11.2,11.3 (1) (3)の解答例.
- 1月16日
- 1月30日
- 期末試験の答案を2月6日,2月10日に返却しました.
- 講評・解答例
- 受け取れなかった人については,希望があれば個別に対応します.メールで連絡してください.