担当:松本佳彦 matsumoto (at) math.sci.osaka-u.ac.jp
オフィスアワー:学期中の火曜14:00〜15:00
履修対象:工学部(地球総合工学科1〜60)
水曜3限(13:00〜14:30)・共通教育棟C棟406教室
授業日程:10/5, 10/12, 10/19, 10/26, 11/2, 11/9, 11/16, 11/30, 12/7, 12/14(休講), 12/21, 1/11, 1/18, 1/25, 2/1
中間試験:12/7
期末試験:2/8
シラバス
期末試験答案を2月24日(金)まで返却中です。詳しくは問題用紙一番下の注意書きを見てください。
1学期の「線形代数学A」では主に行列や行列式が扱われたと思いますが、それに引き続いて、以下に挙げるような線形代数学の基本的事項を学びます。
- (数ベクトル空間に限らない)一般のベクトル空間の概念
- ベクトル空間の基底と次元
- 線形写像とその表現行列
- 線形写像の固有値と固有ベクトル、行列の対角化
- 内積、正規直交基底、対称行列の直交行列による対角化
教科書
- 三宅敏恒『線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ』(培風館、2008年)
講義は、おおむね教科書に即した形で進める予定です。
参考書
もっと詳しいことが知りたい人や、教科書や講義とは別の説明を読みたい人のために、参考になると思われる本を挙げておきます。
- 佐武一郎『線型代数学』(裳華房、1974年、新装版2015年)
- 齋藤正彦『線型代数入門』(東京大学出版会、1966年)
- 松坂和夫『線型代数入門』(岩波書店、1980年)
- 小寺平治『明解演習 線形代数』(共立出版、1982年)
- 永田雅宜ほか『理系のための線型代数の基礎』(紀伊國屋書店、1986年)
- 高橋礼司『線型代数講義』(日本評論社、2014年)
- 長谷川浩司『線型代数[改訂版]』(日本評論社、2015年)
内容・資料など
- 10月5日
- ガイダンス
- 線形代数をなぜ学ぶか
- 一般のベクトル空間の概念について大雑把な説明を行い、さまざまな具体例を挙げました。
- 線形代数の応用される分野にいくつか触れ、科学・技術において線形代数が基礎的な言語としての位置を占めていることを説明しました。
- (斉次線形)3項間漸化式の解法を題材にして、線形代数で現れるいくつかの用語を、説明を抜きにして紹介しました。(少々駆け足でしたが、いずれにせよ現時点で理解できると想定している話ではないので、この部分はわからなくても心配しないでください。)
- 10月12日
- ベクトル空間(教科書4.1節)
- ベクトル空間の正確な定義を説明しました。
- ベクトル空間の部分空間の概念と、部分空間であることを判定する方法について説明しました。
- 10月19日
- 一次独立と一次従属(教科書4.2節)
- ベクトルの組に対する一次独立性(および一次従属性)の概念を説明しました。
- 一次独立性の概念に関するいくつかの基本的性質を証明しました(定理4.2.1, 4.2.2, 4.2.3)。
- 一次独立性の判定の実例を扱いました(例題4.2.1, 4.2.2の類題)。ここで見たように、一次独立性の判定は連立1次方程式を解くことに帰着されます。連立1次方程式についての理論(教科書2章)を必要なら復習しておいてください。
- 定理4.2.4, 4.2.5は説明しませんでした。5.2節で用いるので、その際に触れます。現時点では演習問題のようなつもりで自分で取り組んでみてください。
- なお、この授業では「一次独立」「一次従属」という表現を使うことにしましたが、もちろん教科書のように「1次独立」「1次従属」と書いてもいいし、あるいは「線形独立」「線形従属」とか「線型独立」「線型従属」と書いてもかまいません。個人的には「線型」派です。
- 10月26日
- 一次独立な最大個数(教科書4.3節)
- ベクトルの集合$X$に対する「$X$のベクトルの一次独立な最大個数」の概念を説明しました。これを$r(X)$という記号で表すことにしました。そして、極大一次独立系の概念を導入し(教科書には載っていません)、それを用いて「一次独立な最大個数」を特徴づけました(実質的に定理4.3.2)。また、$r(X)$の値および「$r(X)$個の一次独立なベクトルの組」を求めるための、最も基本的なアルゴリズムについて述べました(定理4.3.Aとしました。これも教科書にはありません)。
- 数ベクトル空間の場合に、行列の簡約化が、$r(X)$の値や「$r(X)$個の一次独立なベクトルの組」を求めるために役立つことを説明しました(例題4.3.1、定理4.3.3)。さらに、正方行列が正則行列であることの一次独立性を用いた特徴付けを述べました(定理4.3.4)。
- なお、定理4.3.3の後半は紹介にとどめました。事実として知っておけばとりあえず十分です。
- 一般のベクトル空間の場合に、$r(X)$の値や「$r(X)$個の一次独立なベクトルの組」を求める作業が、数ベクトルの場合に帰着されることを説明しました(例題4.3.2)。
- なお、例題4.3.1, 4.3.2について、「他のベクトルをこれらの一次結合で表せ」の部分は省略しました。また、教科書の定理4.3.1, 4.3.5, 4.3.6は飛ばしました。
- 2つの例題における「他のベクトルをこれらの一次結合で表せ」の部分は、教科書では簡約化を用いてやっていますが、その方法にとらわれないでほしいと思います。実直に連立1次方程式を立てるのもおすすめの方法です(次回、この点を補足するプリントを配るつもりです)。
- 定理4.3.5は知らなくてけっこうです。定理4.3.1も覚えなくていいです(次回の内容を使うとあたりまえの話になる)。定理4.3.6もこの形で覚えようとしなくてかまいません(実質的な内容は例題4.3.2に含まれているので、例題4.3.2の解法をよく納得してください)。
- ところで説明の中で「6個のベクトルから4個選ぶ方法の総数は12通り」と言ってしまいましたが、正しくは15通りですね。失礼しました!
- 11月2日
- 前回の補足
- ベクトル空間の基底と次元(教科書4.4節)
- ベクトル空間の基底と次元の概念を説明しました。また、有限生成ベクトル空間には実際に基底が存在することを証明しました。(以上、ほぼ定理4.4.1, 4.4.2に相当。)
- 有限次元ベクトル空間$V$に対し、$V$を生成するベクトルの組からはその一部分を選んで基底を作れること、また一次独立なベクトルの組からはそれにベクトルを付け加えて基底を作れることを証明しました(定理4.4.5プラスアルファ)。また、後者の実例を扱いました(問題4.4.4の(1))。
- 連立1次方程式の解空間の次元を与える公式を紹介しました(定理4.4.3)。また、解空間の基底を構成する手続きの実例を扱いました(例題4.4.1)。
- 11月9日
- 線形写像(教科書5.1節)
- 線形写像の概念を説明しました。
- 線形写像の像と核について説明しました。像と核の次元は、それぞれ、線形写像の階数と退化次数と呼ばれます。$m\times n$行列$A$によって与えられる線形写像$T_A\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$については、$T_A$の階数は行列$A$の階数に等しいことを述べました(定理5.1.A)。さらに、一般の線形写像に対する次元定理に触れました(定理5.1.2)。
- 行列$A$によって与えられる線形写像$T_A\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$の階数や退化次数、さらには像や核の基底をどのように求めればいいか、その実例を扱いました(例題5.1.1)。ここでやった像$\mathrm{Im}(T_A)$の基底を求める手続きは、事実上、定理5.1.Aの証明になっています。
- 11月16日
- 中間試験(12月7日実施)について
- 線形写像の表現行列(教科書5.2節)
- 数ベクトル空間の間の線形写像は必ず行列によって与えられるものに一致することを説明しました(定理5.2.A=問題5.1.4)。
- 線形写像の表現行列について説明しました。
- 基底の取りかえに伴う表現行列の変化について説明し(定理5.2.1, 5.2.2)、実例を扱いました(例題5.2.1)。
- 10月19日の授業で「定理4.2.4, 4.2.5は5.2節で使うのでその際に説明する」と言ったんですが、今回は結局、それらの定理を使わずに説明をしてしまいました。なお、その種のことをまったく使わずにすべての説明が完了していたのかというと、実はそうではないのであって、表現行列や基底の変換行列というものを定義する際に、暗に問題4.2.6の結果を使っています。
- 11月30日
- 固有値と固有ベクトル(教科書5.3節)
- 固有値、固有ベクトル、固有空間について説明しました。
- 数ベクトル空間における線形変換の固有値が対応する行列の固有多項式を用いて求められること(定理5.3.1)、また一般のベクトル空間における線形変換の固有値が、表現行列を考えることを通じて数ベクトル空間の場合に帰着できること(定理5.3.3)を説明し、実例を扱いました(例題5.3.2)。
- ケイリー・ハミルトンの定理(定理5.3.2)はこの講義では扱いません。関連する演習問題(問題5.3.1, 5.3.6)もやらなくてかまいません。
- 12月7日
- 中間試験でした。
- 問題
- 2. (2)の「$\mathrm{Ker}T_A$」は「$\mathrm{Ker}(T_A)$」と同じ意味です。
- 3. (2)の「$F$」は正しくは「$F'$」です。
- 12月21日
- 行列および線形変換の対角化(教科書5.4節)
- 行列および線形変換の対角化とは何かということを説明しました。また、両者の関係について説明しました。
- 行列の対角化が可能であるための条件(定理5.4.2)、その方法について説明しました。また実例を扱いました(例題5.4.2)。
- 1月11日
- 応用例:線形常微分方程式(教科書にはない内容です)
- 斉次線形3項間漸化式の初等的解法と線形代数を用いた解法について説明しました。
- 斉次線形2階常微分方程式(定数係数のもの)の線形代数を用いた解法について説明しました。
- 演習問題
- 固有多項式の根$\alpha$, $\beta$が一致しないときだけを扱いました。また、きちんと説明したのは、(漸化式や微分方程式の係数が実数で、さらに)$\alpha$, $\beta$が実数の場合だけです。虚数根が現れる場合については簡単に触れるにとどめました。
- 1月18日
- 内積(教科書6.1節)
- 一般の実ベクトル空間における内積について説明し、シュヴァルツの不等式、三角不等式が成り立つことを確かめました(定理6.1.1)。
- 正規直交基底について説明し、関連して直交性と一次独立性の関係について述べました(定理6.2.2)。
- 1月25日
- 正規直交基底と直交行列(教科書6.2節)
- シュミットの正規直交化法について説明しました(定理6.2.1)。
- 直交行列について、「正規直交基底同士の間の『基底の変換行列』」として説明しました(定理6.2.A、また補助定理として定理6.2.2)。
- 「直交変換」については扱わないことにして、定理6.2.3, 6.2.4は省略しました。関連する演習問題(問題6.2.8)もやらなくてかまいません。なお、定理6.2.5の内容については直交行列の定義の中で触れました。
- 期末試験について
- 2月1日
- 対称行列および対称変換の対角化(教科書6.3節)
- 対称行列は直交行列を用いて常に対角化できるという事実について説明し(定理6.3.3)、実例を扱いました(例題6.3.2)。また、対称変換の正規直交基底による対角化にも触れました。
- 定理6.3.3の証明を、対称行列の固有値がすべて実数になること(定理6.3.1)に基づいて行いました。定理6.3.1の証明は省略しました。
- 定理6.3.2および例題6.3.1は省略しました。関連する演習問題(問題6.3.2)もやらなくてかまいません。
- 2月8日