非エルミートな量子系に対するスペクトル理論は, この30年間で急速に発展している. その背景としては, 原子核物理の散乱理論におけるモデルとして複素ポテンシャルを伴うシュレーディンガー作用素が用いられることや, 複素障壁がある場合にトンネル効果を調べると, エルミート系とは異なる現象が観察されることが挙げられる. また, 数学においては, 量子力学における共鳴極や, 相対論におけるブラックホールの解析手法として, 吸収項つき非エルミート作用素のフレドホルム理論が近年考案されるなど, 注目を集めている. 本講演では, 平坦なユークリッド空間上で, 2次の斥力ポテンシャルを伴う自己共役なシュレーディンガー作用素に, 減衰する複素ポテンシャルを加えて実現される作用素のスペクトル理論を考察する. この作用素の面白い点は, 非摂動系の背景にある力学系の流れが双曲性(通常のアノソフと呼ばれる性質とは少し異なる)を持つことで, ユークリッド空間上の作用素でありながら, 双曲幾何を背景に持つ作用素と似た性質を満たす. これにより, 通常の(非エルミート)シュレーディンガー作用素と全く異なる離散固有値の評価が得られることを紹介する. 講演では主に, (適切にコンパクト化した)配位空間の境界に誘導される写像を観察すれば, 定常散乱理論と組み合わせることで, 評価の予想が得られることを説明する.