ケーラー多様体のグロモフ・ハウスドルフ極限は複素幾何学の中心的な話題の一つである。特にカラビヤウ多様体とその上のケーラー類に対して、複素幾何的な現象と(ヤウの定理によりただ一つ取れるリッチ平坦計量の)微分幾何的な現象の比較は興味深い問題である。 もっとも簡単なカラビヤウ多様体として、K3曲面を考える。偏極付きK3曲面の自然な退化として有理二重点を持つ曲面への退化が考えられるが、この退化は(偏極の中にとったリッチ平坦計量により)グロモフ・ハウスドルフ極限として実現できることが Kobayashi-Todorov により示されている。ここで、計量をリスケールしながら改めて極限を取り直すことでバブルと呼ばれる新しい収束先を得ることができる。バブルは特異点への退化の情報を多くもち、退化の理解において重要な役割を持っていると考えられている。 本講演では、K3曲面の場合を中心にこれらの現象を解説し、バブルの解析の応用としてチャーン形式の漸近的な挙動の解析を紹介する。