2010年中頃,Marcus, Spielman, Srivastavaらの多項式の研究によって,多項式のたたみこみ理論が自由確率論の離散近似理論としての役割があることがわかってきた. こうした背景から,多項式たたみこみ理論は今日では「有限自由確率論 (finite free probability theory)」と呼ばれ,2020年代に入って急速に発展してきている. 本講演では,多項式列の経験根分布の次数極限による収束が,その多項式の連続係数比が極限分布の$S$-変換に収束することと同値となることを解説する. このことから,多項式の連続係数比は「多項式版の$S$-変換」と理解できることに注意し,自由確率論の$S$-変換と類似の性質をもつことも説明する. また,本研究成果から導かれるいくつかの結果として,多項式の極限定理への応用やFuglede-Kadison行列式との関連などがある. これらについても,時間の許す限り説明する予定である. 本研究は,Octavio Arizmendi氏 (Centro de Investigación en Matemáticas),藤江 克徳氏 (京都大学),Daniel Perales氏 (Texas A&M University) との共同研究である.