1980年代後半から急速に発展した「フラクタル上の解析学」では Sierpinski gasket や Sierpinski carpet を始めとした自己相似フラクタル上での熱拡散 (Brown運動) の定式化を皮切りに, 熱核評価やポテンシャル論などの豊富な解析学が展開された. これらの解析学は Hajłasz, Heinonen-Koskela, Shanmugalingam, Cheeger などらによる「距離空間上の解析学」とは異なった特異的様相を呈し, 従来の Euclid 空間や Riemann 多様体の上の解析学の常識は通用しない世界であることが明らかになった. その一方で, 特に Sierpinski carpet 上では, 多くの評価が確率論的解釈に依存していることが障害となり, 単純な $L^p$-拡張, すなわち $(1,p)$ -Sobolev 空間と対応する $p$-エネルギーの定式化, すらままならない状況であった. 本発表ではSierpinski carpet のグラフ近似列上の離散エネルギーの (部分列) スケール極限としての $(1,p)$-Sobolev 空間と$p$-エネルギーの構成法, 可分反射性や正則性 (連続関数の中で稠密) などといった関数空間の基本的性質に関する結果, 及びAhlfors正則等角次元と呼ばれる幾何学的量との関連を述べる. 本研究は Mathav Murugan 氏 (University of British Columbia) との共同研究に基づく.